伝説的なオペラ演出家、オットーシェンクが虹の橋を渡った
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先週、私が最も尊敬する演出家の一人、オットーシェンクさんが虹の橋を渡りました。それからなんだからずっとぽっかり心に穴が空いたような気分になってます。94歳。ずっと病気をしていたらしく、私は非常に残念ながら会ったこともないし、公共の場所にはもう本当に長らく出てきてなかった。それでも彼の演出作品はずっと上演されていて(年々少しずつ取りやめにはなってきてはいたが)その作品群は本当に素晴らしかった。私が留学を始めたのがベルリンなんだけど、余りのモダン演出のハコビリ具合に自分の感受性というか芸術家としての軸のような物を失いかけ、全くもって「モダン演出最高じゃん!」と言い切る周りの人(特に演出学科の教授と同級生や先輩たち。ちなみにドイツで一番レベルが高いと言われている音大内の話です。)のセンスがわからなくなりベルリンを飛び出した。ドルトムントでひとクッション置いてのご縁あってのウイーンで、オットーシェンクの作品を見て私は心が洗われるようだった。「ああ。いいんだ。、私が好きなテイスト(演出的方向性)が存在していいんだ。」と励まされるような気分だった。世界中に運びるモダン演出の黒い渦の中、オットーシェンクの作品を見ると心が救われるような気分になってた。「もう、かれの作品以外はオペラじゃない!許さない!」というくらいの気持ちになるくらいに。笑
何が彼の作品のすごいのか。とにかく細分までのこだわりがすごい。かれの作品で照明さんとして舞台で仕事していたことがあるからわかるんだけど、セットも衣装も小道具も本当に一つ一つ手で丁寧に作られている。それが歴史的、ストーリー的、そして音楽的にきちっと辻褄が合うようになっている。
最近の人は、というか特に海外のオペラ関係者はみんな、クラシカルな演出は時代遅れ、ダサい、つまらない、というのだけど、本当に???オペラの作品背景の時代をきちんと表現することって、本当に難しいのだよ。たーくさん調べなきゃいけない。現代化しちゃうことって、意外と簡単なんだよ。、
っていうと、「演出とは新しいアイデアがなきゃいけないんだ!」ってみんな言うんだけど、それ本当????オペラと演劇の大きな違いはここだ、と私は思っている。オペラは音楽ありきの作品で、音楽はもう200年とか前に書かれているわけ。それを尊重する演出をして何が悪い???アイディアの「びっくり箱展覧会」は違う芸術分野でやってほしい。パフォーミングアーツは他にもたくさん分野があるのだから。わざわざ音楽的傑作を使わなくてもいいじゃない。
って言うと、「新しい演出アイディアのためなら音楽は多少犠牲になってもいい!」っていうんだけど、それ本当???
本当に、本当に音楽的にハイクオリティで演奏できたら他に何もいらないでしょ?作曲家のこともっと信じようよ。音楽家が音楽的に一番良いパフォーマンスできるサポートするのが演出家でしょ?演出家が音楽家の邪魔してどうすんのさ。
私はオペラは音楽作品だとおもっていて、だから、オペラの上演でとにかく音楽を守りたいんだ。それがオペラを守ることなんだ。オペラの傑作たちは、時代や民族性を超えて人の心に訴える力があって、それは多分今ある芸術分野の中でも最大級のエネルギーを放出できる可能性を秘める。それを現実化したのがシェンクさんや、同じような伝統的な演出をしたゼッフィレッリ(こちらはイタリア人ですでに亡くなっている。)ポネル(こちらはフランス人。彼もすでに亡くなっている。)なんだけど、その伝統的な演出作品がどんどんと取りやめになってもう世界でもほとんど見ることができないのは本当に残念だ。
マイクを通さない生の声と、生のオーケストラで奏でられる響きに身を委ね歌劇場に数時間座り、目の前に繰り広げられるドラマを目と耳と匂いやその他の第六感で感じていると、天にも昇るようなフワーッとした気分なりそれから数日は身体中にエネルギーが満ちた感じになる。年配の方達はそれを知っているから、またその経験がしたくて足しげく今でも歌劇場に通ってくださるのだろう。現代のオペラ座でそういったマジックのような瞬間を感じることは本当に少なくなった。若い人たちは経験したことがないと思う。本当に残念だ。(今の現代演出のオペラを見ると逆にエネルギーを持っていかれてしまう気がする。見終わった後どっと疲れる。)
シェンクはウイーン国立歌劇場では30本、メトロポリタン歌劇場では15本、バイエルン国立歌劇場では10本も演出したそうな。今バイエルン国立歌劇場にはその中でたった1本だけ、まだ彼の作品が上演されている。それがボエーム。私はここ数年、バイエルン国立歌劇場でボエームでは黙役俳優さんとして舞台に出せてもらってるんだけど、古ーい衣装に袖を通させてもらうたびに本当にありがたい気持ちになる。他のキャストの衣装もとびきりよくできていて、いつもみんなで細部まで衣装を見せあって楽しんでいる。モダンの作品を上演する日よりもシェンクの作品の日はずっとみんな楽しそう。見てる方も、演じる方も裏方もみんな楽しそう。それがオペラの本当の力。
これからオペラの世界はどこに行くんだろう?私と同じような意見感覚を持つ人集まれ!シェンクのような作品の作り方の灯火をまた活性化させて、そういう伝統的な演出で見せる歌劇場作りたい!一緒に夢見てくれる人、募集中!
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